地域医療をやっていて、一番楽しいのが「訪問診療」である。
病院ではみられない患者・家族の笑顔がそこにはある。
病院では患者・家族は慣れない場所で、白衣の人間に囲まれてきっと居心地の悪さを感じていることであろう。
しかし、一旦病院を離れて地域へ出れば、今度は白衣の人間が異質な存在となる。
当然の事ではあるが、自分の家の中では患者・家族はとてもリラックスし、自分の布団で寝起きをし、自分の庭でとれた野菜を食べ、いつもの風景をみながら生活している。
カルテで知る患者の生活が現実のものとしてまさにそこにあるのだ。
先日行ったある訪問診療での事・・
患者は80代の男性で脳梗塞発症後に長年寝たきりで、会話は出来ず、食事は胃瘻からである。
喀痰が多く、舌根沈下しやすい事もあり、肺炎などを起こすと直ぐに低酸素血症となる。
今回も肺炎から入院となり、3ヶ月の入院加療にてようやく退院する事になった。
本来であれば気管切開等の適応であると思われるが、家族(特に妻)はそれを望まず家に吸引器を購入し、退院後は家族が頻回の喀痰吸引をする事となった。
そして、先日が退院後はじめての訪問診療。
妻は患者のベッドの横に自分のベッドを置き、一日中患者に付きっきりで看病をしていた。
妻自体も高齢で決して元気ではないが、吸引器の使い方を覚え、頻回に患者の痰吸引をしているという。
夜も1時間おきに起きては、夫の様子をみているらしかった。
妻が休まるのは数少ない訪問看護とヘルパー訪問の時のみ・・
それでも妻はこう言った・・
「先生と看護婦さんがこうしてわざわざ家まで来てくれるだけで十分です。昔は先生が家まで来てくれる事なんてなかった。家で悪くなれば諦めるしかなかった時代です。今は本当に物が溢れ、良い時代になった。これ以上望むのは贅沢です・・」
そう言って、今以上の訪問を断った。
そして、痰のからんだ患者の痰を看護師が吸引すると、妻は「良かったね~」と言って夫の頭を撫で、抱きしめて喜んだ。それはまるで母親が幼い我が子を抱き締めるようであった。
へき地・離島に住む人々にとって、理想とする地域医療とはどんなものなのだろうか!?
へき地・離島医療を考えるのに、参考となるHPを紹介したい。
http://www7.plala.or.jp/machikun/chiiki2.htmこの中で述べられている「自治医大方式」「徳州会方式」について考えてみた。
http://www7.plala.or.jp/machikun/ritoushujutu.htmここで「自治医大方式」とは、
経験の少ない若い医師が派遣される自治医大方式では診療所は初期治療&慢性疾患の診療にとどまり、手術等が必要な患者はすみやかに基幹病院へ搬送する、ということが前提となっている(オープンシステム、軽装備診療所方式)と説明されている。その背景にある考え方は「へき地・離島ではあまりよけいなことはやるな」である。
一方、「徳州会方式」は、
人口規模に比して過剰ともいえる手術設備、CT/MRI等の重装備を備えた病院で、医療が離島で完結することをめざしている(クローズドシステム、重装備病院方式)。その背景にある考え方は「地域治療は出来るだけその地域で行われるべき」である。
どちらが優れているとは言わないが、それぞれに利点・欠点がある。
「徳州会方式」を先に言えば、重装備病院の設備を使いこなせる実力のある医師が派遣された場合にはまさに理想的な病院であるが、そうでなければただの立派に着飾った箱にすぎない。
「自治医大方式」の場合には、初期治療をきちんと行い、適切な病院へ紹介・搬送できる医師がいれば、それなりの医療を行っていけると思われるが、これが方向性を間違うととんでもない事になってしまう。
患者・家族とすれば、自分の住み慣れた土地で、出来ることなら自分の町の病院で治療を受けたいと思うのが当然である。
そして、その望みを出来るだけ叶えてあげたいと我々医師も少々無理をしてでも頑張るわけであるが、その思いに偏り過ぎるあまり、「自治医大方式」の中でクローズドシステムを取り入れる医師がいる。
すると、どういった事が起きてしまうだろうか・・
そういった医師の日常診療での決まり文句は、「経過観察」と「
DNR」である。
高齢者の多いへき地・離島医療において、この二つの言葉が他の地域に比べて使う事が多いのは確かだ。
しかし、この二つの言葉を使い慣れてしまうと、医師は頭を使わなくなる。
80代・90代で寝たきりであれば、熱が出ようが痰が出ようが、培養もせず抗生剤も使わずとりあえず経過観察。そのまま採血もレントゲンもとらず、DNRはしっかりとって経過観察・・
そして、ついにはそれを50代・60代の患者さんにまでやってしまう事になる。
時には・・。
そのような医師は、へき地・離島においてもネット環境が整い情報が溢れる時代において、新しい知識を取り入れようとせずに自己流の医療を続ける事になる。
医療だけでなく、自分の医療レベルをも「クローズド」してしまうのだ。
そのまま自分の危うさにも気付かずに、preventable deathを作り続ける。
へき地・離島という環境では、病院スタッフも含めて町全体が家族のような繋がりを持っているが、やはり地域医療を考えるにはそこに甘えすぎてはいけない。
医師だけでなく、看護師始めとする他の医療スタッフも自分の仕事に誇りを持ち、自分たちの住む地域を少しでも良くしていくために不断の努力を続けていくべきである。
患者・家族が諦め続けないといけないような地域医療であってはならない。
老いた夫婦でも安心して過ごせる地域を目指していきたいものである。