先日、自宅で亡くなった方の検死(検案)に行った。
その方は自分の外来に高血圧などで通院していた方だったが、比較的元気で病状も安定していた。
その方が、ある日の朝に突然息を引き取っていた。
搬送車の依頼が病院にあり自宅に向かったが、既に蘇生を行う余地はなかった。
警察に連絡を取り、異状死体の届出を行った。
自分の住む地域から所轄警察署までは車で2時間近くかかる。
係官が来るまでの間、家族は御遺体を動かすことは出来ずただ待つしかない。
そして、家族が見守る中でようやく検視が始まる。
医師は異状死体を検案した場合、24時間以内に所轄警察署に届けなければならない(医師法第21条)。
異状死体とは外因死(不慮の事故死・自殺・他殺・その他)や死因不明の死体、または死亡前後の状況に異常がある死体をいう。
異状死体の届出があると、警察官が死亡の状況や死因などについて捜査する。係官が行う死体の検査を「検視」といい、検視の補助行為として、医師が死体を検案することを「検死」という。
検視の結果、必要があれば「法医解剖」が行われる事になっている。
法医解剖は「司法解剖」と「行政解剖」とに分けられる。
司法解剖は、犯罪に関係ある死体、またはその疑いのある死体について、死因、創傷、病変、成傷器の種類・用法、死後経過時間などを究明することを目的としており、刑事訴訟法に基づいて学識経験者が鑑定を委託されて行う。
行政解剖は、死因の明らかでない病死者、自殺者、災害死者、伝染病死者、食中毒死者など、犯罪に関係が無い異状死体の死因を究明することを目的としており、死体解剖保存法などに基づいて監察医が行う。
しかし、この監察医制度が実際に活動しているのは東京、大阪、神戸のみである。
監察医制度の無い地域では、一般の医師が異状死体を検案するが、行政解剖を行うことはできない。
現実には検案のみでは死因が確定できない場合が少なくないが、これらの地域では検案した医師が無理に死因を決めざるを得ないというのが現状である。
果たしてこのような状況のままでいいのだろうか。
医師は確かに学生時代に法医学についても勉強するが、法医学を専門とする医師以外は一般診療においてそのトレーニングを受ける機会はほとんどない。
それぞれの医師は、それぞれの専門を持っている。死体を検死するには、法医学の勉強を多くしており、死体所見から死体の声を聞くことができる監察医が最も適しているのだ。
「監察医による検死制度を全国に普及させよ」 http://www.geocities.com/benronbu/inr32-13.htm
この監察医制度について、注目を集めたのが時津風部屋力士暴行死事件だ。
2007年6月に時津風部屋の宿舎で死亡した17歳の力士について警察が検視で事件性がないと判断されたが、後の解剖によって暴行された疑いが強いことが明らかになったのだ。
その背景には警察官が取り扱う変死体などの件数が年々増加しているのに対し大学の解剖医の不足があるとし、警察庁は2008年1月に日本法医学会に対しすべての都道府県の司法解剖の体制を充実させるよう要望した。
しかし、監察医制度が全国的に普及したとしてすべての問題が解決するわけではない。
「殺人天国日本」 http://www.kyudan.com/opinion/kansatsui.htm
監察医制度を全国展開しようとする場合でも、法律で費用負担者や責任者を明確にしなくてはならないし、米国のようなしっかりした監察医制度を展開するには、法律で監察医に捜査権を持たせるか、全例で刑事調査官が関与する必要がある。
「単なる監察医制度の拡大では問題は解決しない」 http://blogs.yahoo.co.jp/momohan_1/37445826.html
自分は、検死した患者さんからのラストメッセージを受け止める事ができただろうか・・
<関連記事追加>(2008年12月22日 読売新聞)
死因究明センター「全都道府県に」提言…法医学会
日本法医学会は21日、死因不明の異状死を減らすため、行政解剖を国が運営する専門機関で行うなどとする提言をまとめた。
「死因究明医療センター」を全都道府県に設置し、死因の初期診断からかかわる専門医の倍増を求めている。1月、厚生労働、法務省などに示す。
提言では、犯罪が疑われる遺体の司法解剖はこれまで通りとし、日本独自の司法解剖と行政解剖の二本立てを維持し、改善を目指す。
また、異状死を専門でない開業医らが診断している現状について、法医学や病理学の知識がある専門医が行うべきだとする。その上で、少なくとも120人の専門医と事務・検査職員720人が新たに必要になると試算している。
行政解剖:犯罪に巻き込まれた疑いは薄いが、死因不明や感染症、中毒などが疑われる遺体について、死体解剖保存法に基づいて行う。都道府県知事が置く監察医が担当する。
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